大量絶滅

「誰かがそれを作るといえば、他の物を作る、それが人の有り様だろう」
「Sigilのことを言っているんですか?」
「そのとおり。SigilをEPUB3に対応すると言って、やらなかった」
「そんな…だって、彼は本業が忙しくて」
「忙しい? コードを書かないプログラマ? それはプログラマではない」
「…そんな理由でいちいち人を殺していたら、誰も残りませんよ!? それに本を作るためだけに人間があるわけじゃない」
「そんなところから説明しなければならないのだな…」
ゆっくりと、シスターが首をかしげる。右手の人差し指が、つややかな唇に触れるのが見えた。

「人が本を作るのではない。本を作るために、人が作られた。作った」
背中に抜き身の日本刀が突き当てられているように感じる。息が、つまる。
「木を育むには不要な枝は払わねばならん。私は間引きをしているだけだ」
「そんなことをしていたら、本の多様性が…」
「私を、失望させるな」
言葉はそこで切られた。だけど、その後の言葉は聞かなくともわかる。さもなくば、だ。
プランクトンが増えすぎれば、海は紅く染まる」
シスターがゆっくりと腕を組み、顎を引く、鋭利な視線が僕の眉間を貫く。
「本当の本の元年が来る前に、私は要らぬ枝を払う。間引く。あらゆる命を五回滅ぼした。いまさら人を減らすことに、否応のあるはずもなし。そもそも、本を作るために私がお前達を選んだのだ」
「…だめよ…」
手元のiPhoneから、振り絞るような声が聞こえた。いつもの自信満々の罵倒トークからは想像もつかないような、細い声。