むしろバキュラ

「不出来な妹が、私に意見するとは、な」
風がお姉様の髪を巻き上げる…いや、一本ずつが鎌首をもたげたのだ。髪が緑になり、青になり、やがて白く燃えるように輝く。
「…パレット替えみたいだ…」
「なにマニアックな事言ってるの! さっさと逃げて!」
お姉様が右手を前に差し出すと、抜き身の太刀が手の中に幻出<リアライズ>した。お姉様の瞳が漆黒の闇から昴の白に変わる。右手のiPhoneががなりたてているが、僕は射すくめられてへたり込んでしまった。桜坂さんもこの燃える瞳と髪を見ながら死んだんだろうか… お姉様が手首を返して太刀を正眼に構える。動けない。あぁ、我慢できずに瞬きをした瞬間、僕の鼓膜は雷撃に貫かれた。


怖くてぎゅっと、目を閉じていた。痛く、ない…?
おそるおそる片目を開ける。こ、これは…
「ほう…」
お姉様の斬檄を受け止めたのは水晶<クリスタル>の壁。彫り込まれたルーンは"
第7回 電子出版アワード"!!!
「このようなことができるようになったのか。三日会わざれば、というが、何万年も不出来なままだったお前がな」
お姉様が薄く嗤う。手元のiPhoneが怒鳴り返す。
「これが、これが、これが<びっくり☆鈍器ー>よ!
「鈍器っつーか、壁じゃないか! むしろバキュラ…」
「つっこんでる暇があったらさっさと逃げろ!」
あまりにしょうもないネーミングに、金縛りも解けたようだった。ほうほうの体で、ぼくは44Pからのダッシュかまして逃亡に成功した。


(バッドエンド1 時事ネタを突っ込むと賞味期限が短いから気をつけよう。風邪をひいてるんだからさっさと寝ましょう)