「?」
事務所の予定表に、知らない予定が書き込まれていた。デスクでパソコンしていたプロデューサーと目があう。
「そこ、大丈夫か?」
「はい。でも、なんですか? スタジアムって」
那古野スタジアムとある。那古野は東京から新幹線で2時間ぐらい? 行ったことがない。
「新曲、クルマのCMに使われることが決まったんだ。おめでとう」
プロデューサーがにっこりと笑う、それからゆっくりと怪訝な表情に変わる。
「…いえ、それとスタジアムっていうのがつながらなくて」
あぁ、と、プロデューサーが立ち上がって腕組みをした。
「そのクルマのプロモーションだよ。自動車会社が持っているプロチームの試合でイベントをやるんだ。前座といえばそうなんだけど…あの曲を歌わせてもらうことにした。どうだ?」
「歌が…歌えるのなら」
「そういうと思った」
プロデューサーが屈託無く微笑む。私は、この人の笑顔が少し苦手だ。でも、歌が、歌えるのなら。