ドアを後ろ手に締めながら、父さんのお古の5s(格安SIMが入ってる)をフリックしてちーちゃんの曲をイヤホンに流す。なんか学校行きたくないな、という気持ちを、ちーちゃんの前向きな歌声が後押ししてくれる。エレベーターはすぐに来て、1、閉をつつく。閉まりかけたドアがガシャンと鳴った。黒のハイソックスに包まれた脚がドアの挟み込み検知スイッチを蹴り飛ばしていた。
「気が付いてたのに閉めたろ」
「…知らねーよ」
聞こえないふりををして、聞こえないように言い返す。

仲良くしてあげてね、今も美人なエナのお母さんはそう言って俺の肩にポンと手を置いた。エナが隣に引っ越してきたときだから、小学校4年のとき。それ以来、中学2年の今に至るまで、なぜか同じクラスの腐れ縁だ。はじめのうちは一緒に空手の道場に通ったり、仲良くしてた気がするけど、エナの身長が伸びて、それから俺の身長も伸びて、いつの間にか壁が出来た気がする。

エナはクラスの人気者で、隣の席の俺は負け組とまでは行かないまでも、勉強以外にはさして取り柄のないどこにでもいる中学2年の2年生だ。