それは、昼休み。弁当を食い終わって、ぼんやりツイッターを眺める。普段は200ぐらいの未読が500になっていた。なんかあった?
『ちーちゃんミニライブ@那古野 キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!』
『CMタイアップ、サッカーの前座』
『グッズとかあるんか!?」
『不明』

那古野!?

生のちーちゃんを見たことは1回しかない。関東に住んでればライブとか行けるんだろうけど、那古野からライブハウスなんて中学生に行けるわけがない。YouTubeが唯一の接点だ。(余談だが、ちーちゃんにはまだそんなに仕事がない)
が、那古野といえば「ここ」だ。行ける、行きたい、行かなきゃ。


…って、サッカー? チケットどうやって手に入れるんだ?
ツイートを読み進める。きっと答えがあるはず。


『ゴール裏の前?でやるらしいけど、ゴール裏は年間チケット分で終わりらしい』
『マジかよー でもサッカー怖い感じだしなぁ』


TLがみるみるしょんぼりしてくる。
普通の方法じゃ手に入れられないだろうし…
なんか、ツテがあれば…
力が抜ける。机に突っ伏す。
焦点がぼけた目の向こう側で、エナがゲラゲラ笑っていた。クラスのなかだとやたら楽しそうなんだよな、こいつ… つうか家が隣で学校でも隣ってどういう…

…そうだ、その手があるじゃん!
ガシャと音を立てて立ち上がる。エナと仲間がキョトンとした顔でこっちを見る。
「つきあって!」
会話に唐突に割り込んだ俺。やたらスナップのきいた平手打ちが飛んできた。


放課後、当然のごとく職員室に呼び出され、何故か俺まで叱られた。
「あやまんないからね」
教室へ戻る渡り廊下、エナがこっちを見ずに言う。
「別に謝ってもらう必要ねーよ。悪いの俺だし」
「わかってんだ」
「ちょっとはしょりすぎた」
「そ、ムードなさ過ぎ」
「あぁ、それ、誤解」
返事が、ない。振り返るとエナが肩を震わせている。
「…どう…いう…ことだー!!」
モモ裏を狙った回し蹴りが空を切る。見切った!、とにやけた鼻先を上履きの上段足刀がかすめる。よろけて、尻餅。ギャル子の残心の拳が俺を睨んでいる。
「…パンツ見えるぞ」
「見せパンに決まってるだろうが、このムッツリ」


「…そういうことか…」
エナがココロノソコカラバカバカシイという顔をした。
「わりぃ、チケット一枚、どうにかなんねぇ?」
オタクめんどくせえなぁ、とエナがぼそっと言った。カバンの中からデコデコのスマホを取り出す(機種がわからないぐらいデコられてる)
「…あ、にぃにぃ?」
にぃにぃ? なんかオクターブ上がってませんか?
「うん、で、今度のゴール裏、あまりってないかなぁ。知り合いが行きたいって言ってるんだけど、無理ならいいから」
いや、そこは無理してくださいよ。ていうか、メッチャくねくねしてるんだけどこの人。
「…ん、わかった。そいつは私が連れてくから現地で…うん、ごめんね、無理言って」
スッとタップして電話を切るエナが、天使に見えた。
「さて、何してもらおうかな〜」
俺に向き直ったエナが悪魔に見えた。