横浜の夜

やっぱり変な感じだ。南側のロッカールームを出て、北を向く。がらんとした廊下。隔週で歩いていた廊下が、ひどくよそよそしく見えた。と、北側のロッカールームのドアが開いた。仕立てのいいスーツ。小気味のいいヒールの音が近づいてきた。
「社長」
社長は眉をしかめ、片目を細めた。
「お前の社長はもう別の人間だろうが」
「…そのほうが呼びやすいんで」
細めた片目をそのままに、逆の目を細めて俺を見る。まあいい、そう言って、いつものようにジャケットのポケットに、高そうな時計を付けた腕をつっこんだ。
「どうだった」
「強かったっす」
負けた相手に言われてもな、と眉をさらにしかめる。
「まぁいい」
表情を変えずに、顎で俺を指す。
「今のウチは、お前たちがいたときとは違う」
「わかってます」
「柱がなくなったから全員が柱だ。お前らのホームに行くまでにもっと強くする。クビを洗って待ってろ」
「次も、勝ちます」
ふん、と、社長の口の端が上がる。次に当たるまで、せいぜい順位を落とすなよ、それだけ言って社長はきびすを返した。軽く頭を下げて、俺は南に向かって歩き出す。俺のチームは、今はもう、こっちだ。