あざといは、作れる?(2)

お姉ちゃんの後をついてお店に入る。店主さんは他のお客さんと談笑していて、少しほっとする。ちらりと見られたが、お好きにご覧ください、という風だった。
さっきも書いたとおり広いお店じゃないが、壁にはみっちりとオーディオ機器が詰まっていた。ただ、どの機械も最低10cmはある。大きなものだと黄金比より縦が長い。フロントがアルミパネルなんて質素な方で、木なら無垢材なのはあたりまえ、その木目の幅や流れ方まで選ばれているように見える。機械というより工芸品という世界だ。
お姉ちゃんが唇に人差し指をあてて、一つ一つのユニットを見渡している。まっすぐに立った背すじ首すじと、日本刀のように反る指先のコントラストが、歴史ある建築物のように思える。ぱちり、と瞬きをして指先を唇から外す。お姉ちゃんが店主さんの方に顔を向けた。店主さんが察して、お姉ちゃんに向かって歩を進める。店主さんと目を合わせたおねえちゃんの人差し指が、タクトのように壁のユニットを一つ一つ指さしていく。あれと、あれと、あれと、あれと、あれを…
「ください」
はい? 店主さんがわたしを見る。いや、こっち見られても困る。白髪のキレイな店主さんは、一瞬ぽかんとしたあと、丸っこい笑みを浮かべた。
「わたくし、売るのが商売ではあるんですが…」
そう前置きして機器の方の壁に手を伸ばす。
「せっかくいらしたんですから、試聴もしていただけると楽しいんです」
あぁ、といって、お姉ちゃんの表情が柔らかくなる。少しお時間頂けますか、と店主さんは言って操作をはじめた。ととと、とお姉ちゃんの斜め後ろに寄ってみる。興味はあるが、一人で立ってるのは心細い。ちょうどそのタイミングで店主さんが振り返る。機器の設定が終了したようだった。
「どのような曲を聴かれますか? BlueToothの使える機器をお持ちでしたら、直接鳴らすこともできますよ」