後輩君受難

初めての客先でのレビュー。建物は確かにデカイが、まぁ、所詮は田舎者だ。ビシッとOK出させて帰るぜ!と意気込んでドアを開ける。会議机の向こうに知った顔。よ、と片手が上がる。
「…なんでユウコ先輩が居るんですか…」
「識者だから」


説明しよう。識者とは、読んで字のごとくその分野に造詣の深い人のことである。プログラマの世界では、頻繁に人材の入れ替えが発生するため、技術の伝承とチェックを目的としてレビューの時だけ「前やってた人」なんかを呼んで確認してもらうことがある。この場合ユウコさんは後輩君のお客さん側なので、先輩ではなくお客様扱いである。


「固まってないで座って、みんな時間ないんだからサクサクやらないと」
あ、はい、と慌てて準備を始める。お客さんたちが目を細めてユウコ先輩を見ているのがわかる。確かに美人だけど、それ、鬼ですよ? ログインしてコードと準備しておいたパワポを画面に出す。
「えー」
「あ、その前にもうチョイ字を大きく。あと、空白文字は全部表示するようにして」
ほんっとうに絶妙な瞬間に腰を折りに来るなぁもぅと思いつつエディタの文字を14ptにする。え? 空白文字? 設定を切り替えた画面には、半角スペースと全角スペースが乱雑に並んでいた。
「あ、それ揃えといてね。バイナリ差分ないでしょ」
あぁぁ、もうどうにかなる気がしない…議事録にメモって顔を上げる。眉をしかめて頭かいてるよこの人…黙って座ってれば美人なのに… と、そんなことはどうでもいいのだ、なんだろあの表情、なんかやばいの?(;´∀`) 気が気じゃないがユウコ先輩はThinkPadの画面から目を離さずに手のひらをこっちにむけ、こっちはいいからさっさと進めろ、とハンドサインを出した。
え、と、あ、と、そうだ、パワポ準備してきたんだった、パワポ出しながら話せば…
「あ」
「なんですか!?」
「こっちいいから進めて進めて」
進めようとするとあなたがチャチャ入れるんじゃないですかー(;´∀`)