Partial Sleep

風が、指の間をすり抜けていく。


眼下には草原。
雲の下の端を縫う。
カイは右の小指をひねる。
わずかに、右の手のひらに圧がかかる。
景色の流れるベクトルが、変わる。



少女は空を見ていた。
雲の端に、なにかが煌めいた。
鈍色の雲に一筋の弧が描かれていく。



カイの網膜と脳をつなぐ神経は、DNAとRNAのSpecificationとは異なる形をしている。
頭蓋と脊髄のトポロジは、リングバスへの参加を前提とするRequirementの下に書き換えられている。
カイの見ている物はカイの網膜に映る物とは異なるし、カイの四肢への命令は脳から10km離れたアクチュエーターを駆動させている。


カイの脳はパーシャルスリープ状態のまま、地表を見下ろしていた。
必要最小限の機能を残し、割り込みがたつのをまどろみの中で待つ。


必要最小限の機能―索敵。