ハックヒルのはじまり

「2020年台の後半、福島はどんどん衰退していったのさ。風評被害も、結婚差別も、収まるどころか勢いを増すばかりだった。年とってリタイアした農家や漁師を継ごうとするヤツはほとんどいない。子どもを欲しいと願うような奴らは県の外に出る。離れられない年寄りは一年ごとにその数を減らす。人は入ってこない、増えない、静かに絶滅する運命だったんだ」
だが一人、発想を逆転させた政治家がいた。
「この土地を忌避するヤツは多い。そいつらを連れてくるのは難しい。それが現実だ。だが、そういうことを気にしない奴らがいる。そこそこ稼いで、無頓着に使っちゃう地域経済に美味しい奴ら、節約って言葉があまりピンとこなくて、サービス産業にバンバン金を使う奴ら、そいつらをその気にさせればそれでいいんだ、そういうやつら向けの特区を作る、と」
「まずネットワークだ。需要がバケツ一個の場所に、タンカーぐらいの光ファイバをひいた。特区内では無料で超高速の無線LANをばらまいた。つぎにAmazonの集配センターを呼んだ。シネコンとジャンクな飯屋のついたショッピングセンター、もちろん、アニメイトまんだらけも入ってる。「そいつら」だけを呼ぶだけでは物足らず、スパコンを建てて特区内からなら無料でシェアする権利を与えた。そして技術開発を面倒にするあらゆる規制を排除した。ついでに表現に関する規制も撤廃した」
「セカンドアキハバラとそれを囲む居住地域、無数のSOHOと研究所。それがここ、ハックヒルというわけだ」