ブロウペンシル

ポーチを引っかけてリビングを横切ろうとしたら、お姉ちゃんに呼び止められた。
「どんなひと?」
40歳くらいの小柄な感じの人、といったらお姉ちゃんはクローゼットからコスメの箱を取ってきた。座って、というお姉ちゃんに素直に従って、ぺたんとフローリングに座る。チークとブロウペンシルがわたしの皮膚をなぞる。書道家のように迷いなく。こんなカッコで出ていっていいのかな、という不安が、お姉ちゃんの手で消えていく。お姉ちゃんの手が私の後ろに回る。抱きしめられるような気がして、どきっとする。お姉ちゃんの白い首筋が視野一杯に広がる。そのまましなだれかかれたらいいのに。お姉ちゃんは私の髪をまとめてサイドに流してくれた。いつもまとまらなくて諦めている髪が、お姉ちゃんにかかると設計の練られたコードのようにシンプルに流れる。
おわり、といってお姉ちゃんがわたしの肩を叩いた。魔法がかかった。なのに魔法がとけたような気分もすこしする。