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「―は何やってる人?」
隣の男に軽く下の名前を呼ばれて、すこし口元が引きつるが、番号で呼ぶわけにもいかないし、下の名前以外知らないんだからしょうがない。そう気を取り直そうとしていたら、周囲が興味津々な顔をして見ていた。正確には周りの男と、周りの女のうちの半分。
「IT系…みたいな?」
と少しごまかしてみる。
「おー」
「意外ー」
「いや、クール系っぽいもんねぇ。わかる、わかる」
わかるなボケェ、と思いながらも見ず知らずの人たちに軽く自己紹介をする。


私がこの席にいる理由は2週間前に遡る。


「お姉ちゃん、フォトショップって使ってる?」
意を決してお姉ちゃんに言ったのは夕食の時。勘も頭も(ついでに顔もスタイルも)いいお姉ちゃんは、それだけでわかったようで、一言
「素材は?」
と聞き返してきた。封筒に入れた写真を渡す。お姉ちゃんが封筒をひっくり返して写真を取り出す。
「…これ運転免許の奴だろ」
「駄目かな」
お姉ちゃんは眉をしかめて、人差し指で髪をくるくると巻く。細くてつややかな髪がさらさらと流れる。ろくにブラシも入れてないのに、なんであんなにしっとりとしてるのか。同じ材料から作られているはずなところが、余計に悲しい。お姉ちゃんはつまらなそうに封筒に写真を戻して、ぽんとテーブルの 端っこに放った。
「ここ3年の写真を全部出して。そしたら、最強のプロフィール写真を作ってあげる」
「作るって」
フォトショップの名前を出したってことは、そういう意味なんじゃないの?」
残っていたサッポロクラシックを開けて、お姉ちゃんはこう続けた。
「そういうの、友達からも時々あるから気にしなくていいよ。次のビールは払ってね」
お姉ちゃんはプロのフォトグラファー。基本はネイチャー系だが、誘われれば結婚式なんかも撮ったりする。そのプロフォトグラファーのお姉ちゃんに対する、不出来な妹のささやかなお願いは、こうだ。


彼氏なし縁なし時間なしの哀れなアラサー妹のために、婚活用の写真をでっち上げてください!(>_<)