プント

暇だ。婚活しててもこんな休日はある。一回目会うのを昼、2回目以降のを夜、って入れるようにしていても、どっちも埋まらない日が増えてきた気がする。
「漁場をかえてみるかなぁ」
とはいえ今のところの会費も別にお安くはない。支出だけ増えて出会いが増えないなんてのもありがちで笑えない。ベッドの上でごろりとして枕元のXperiaを手元に引き寄せロックを解除する。未読なし。ちぇ。
ごろりと寝返りをうったタイミングで、ドアがごんがん叩かれた。
「ねーちゃん」
あぁ、ダメな弟の声がする。もうちょっと静かにノックしろって毎回言ってるのに、がさつなこいつは聞く耳を持たない。
「なーに」
チャッとドアが開いて、ひょろんと弟の顔がのぞく。ワックス使ってやがんな、デートだなこんちくしょう。
「プント借りるよ」
「いいかげん自分の買え」
「別に毎日乗るわけじゃないし」
「ラブホに入れるなよ」
「わかってるよ」
わかってるよ、の「わ」でドアが閉まって、階段をだん、だん、だん、と一段飛ばしで降りる音が聞こえる。ラブホに入れるな、というのは、ボディを擦るのがイヤだからだ。手に入れてから、かれこれ10年くらいになるが、自分でつけた傷はひとつもない。
10年前、突如使えるお金が沸いた。素敵な式にしたいね、なんて寝言をこいていたわたしは、上司に結婚休暇を出しにいくすがら、見る必要のないものを見て、左のジャブで意識をひいて、右ストレートで頬を撃ち抜いた。10年以上経つが、生涯ベストのワンツーだ。とりあえず、三日休むことにして、久しぶりに出社したら机が一つカラになっていた。そして、宙ぶらりんになった貯金は外車になった。