専業作家は減り、兼業作家は増える?

 半年ぐらい前、電子書籍界隈にちょっとした話題になったことがありました。ある作家さんが、「電子書籍は売れないから駄目だ!」とつぶやいていたとのこと。話をさかのぼってみると「自分は初版N千部の作家なのに電子だとほとんど売り上げがない!」とのことでした。で、ある方が聞いてしまいました。「初版N千部はいいんですけど、実売何部ぐらいなんですか?」と。曰く「農家が八百屋に行って何個売れたかなんか聞かないでしょう」とのこと。勘のいい人はもう気が付いたと思います。
 紙の本の印税は、基本的に刷り部数×著者の取り分(7-10%ぐらい)となっていて、実売は関係しないことが多いです。何が起こるかというと、大目に刷って「売れない作家にお金を回して」返本→裁断する。原資は売れてる作家さんの売り上げからだす、という形式ですね。再販制度があり返本があり、なので実売ベースで印税を出すのも大変というのはあるのですが、これが「売れない作家を食わせてた」側面は否定できないと思います。
 電子書籍は基本的に売り上げが一部単位で見れます。Amazonだとcsvでエクスポートできますし、BookWalkerなんかでも同様でしょう。そうすると売上×売価×印税率以上の数字は回らなくなります。これが作家側から見た「電子書籍は売れない!」のからくりです。
 紙にこだわるならば、専業作家は確実に減るでしょう。逆に出版のアジャイル化(次回これかな?)によって、参入障壁が大きく下がった結果として兼業作家は増えることと思います。
 専業作家が増えるシナリオとしては、電子書籍の印税率の高さ−たとえば出版社を通さず、Kindle専売にすると70%にも至る―を活用するパターンがありますが、2018年現在では作家側が販売チャンネルを増やすことを狙いがちで、結果印税率が8-10%程度になる事例が多く、あまり現実的ではないかなぁ、と思います。

第二十七回文学フリマ東京を終えて

割とカッツカツでして、ガイド・ドッグの初校が終わったのが24時あたり、そこからDraft版を印刷したり製本したり修正したり印刷したりで結局準備が終わったのが29時ごろで、体調的にはかなり危険な感じ。懇親会もできれば参加したかったのですが、素直に見送りました。
今回、ガイド・ドッグは本の体裁にすることを初手からあきらめていたわけですが、これは結果的にはよかったんではなかろうか、という気分になっています。少なくとも当日までには書かなければならん、というプレッシャーと、それはそれとして一回は印刷に出してみないと気が付かないこともある、ということで、文フリ(Draftコピー誌)->電子書籍->文フリ(紙の本)というサイクル、割と悪くないんじゃね?と思っています。
今回、蛇之屋さんと隣にしてもらいまして、これは勉強になりました。通る人たちの目線を追っていると、何が目を引いて、手に取るまでのところまでもっていくのかが、すごくよくわかる。単にキレイにするだけでは足りなくて、目を奪うためになにをするべきか、が割とわかった気分になっています。(そして冬花のロゴ更新に至る)
文末になりますが、創望さん、ありがとうございました。一人でいるってやっぱり色々と面倒だなぁというのと、ちょっと話をできる人が隣にいるだけでもアウェイ感は相当薄れました。たすかりました。また、機会があったら、今度はもう少し話ができるといいなと思います。

ガイド・ドッグ-4

「それで、クルマってどうなったんですか?」
「来週納車だってさ。どうするんだろうねぇ。興味ないって言ってるのに」
「ウチのお客さんで持ってる人いるんですけど、割と評判いいですよ。呑んでも帰れるし、終電考えなくてもいいしって」
そりゃ商売繁昌だねぇ、と返すと、そうっすね、売り上げ結構上がってるみたいです、とからりとした答えが返ってきた。
「やっぱり、タクシーって結構かかるじゃないですか。なんか話したりなさそうなのに帰らなきゃ、って話になると、やっぱりこっちもちょっと寂しいんで」
さみしい、かぁ。

ガイド・ドッグ-5

「では、こちらが契約書となります …音読いたしましょうか?」
渡された紙を隣に座っている娘婿にパスする。
「問題ないですね」
「え」
「散々レビューしたんで、見れば改変してあるかどうかはわかります。問題ないですね。要は購入費用に三年分の保険が含まれていて、保険が切れると自動運転機能が無効になります。あとは、普通のクルマと同じです」
万年筆を手に取る。娘婿が手を添えて、サインする場所を教えてくれる。二枚にサインして、あっけなく手続きはすんだ。

娘婿が店の隅で遊んでいた娘と孫娘をよびよせる。やれやれ、さっさと帰りたい。 …帰る? 店を出ると、それ、は目の前にあるようだった。娘婿がシートの場所を教えくれて、助手席側に座った。
「これ、おばあちゃんのくるまになるの?」
窓の外から孫娘の声がする。
「そうみたいだね。どんなだい?」
「うーんとね、赤いの。金魚みたいにぴかぴか」
「赤?」
 助手席にいるはずの娘婿のほうに顔を向ける。
「あ、駐車場はプリセットされてるんで、帰りましょうか」
 聞こえないフリをされた。
「右手をドアに沿って、少し前に出してください。そこに縁取りされたスイッチがあります。そう、そこ。押してください」
滑らかなリングの中に、ざらりとした感触の丸いスイッチがあった。軽くそれを押し込む。メジャーのアルペジオが鳴った。

 こんにちは。