ガイド・ドッグ-5

「では、こちらが契約書となります …音読いたしましょうか?」
渡された紙を隣に座っている娘婿にパスする。
「問題ないですね」
「え」
「散々レビューしたんで、見れば改変してあるかどうかはわかります。問題ないですね。要は購入費用に三年分の保険が含まれていて、保険が切れると自動運転機能が無効になります。あとは、普通のクルマと同じです」
万年筆を手に取る。娘婿が手を添えて、サインする場所を教えてくれる。二枚にサインして、あっけなく手続きはすんだ。

娘婿が店の隅で遊んでいた娘と孫娘をよびよせる。やれやれ、さっさと帰りたい。 …帰る? 店を出ると、それ、は目の前にあるようだった。娘婿がシートの場所を教えくれて、助手席側に座った。
「これ、おばあちゃんのくるまになるの?」
窓の外から孫娘の声がする。
「そうみたいだね。どんなだい?」
「うーんとね、赤いの。金魚みたいにぴかぴか」
「赤?」
 助手席にいるはずの娘婿のほうに顔を向ける。
「あ、駐車場はプリセットされてるんで、帰りましょうか」
 聞こえないフリをされた。
「右手をドアに沿って、少し前に出してください。そこに縁取りされたスイッチがあります。そう、そこ。押してください」
滑らかなリングの中に、ざらりとした感触の丸いスイッチがあった。軽くそれを押し込む。メジャーのアルペジオが鳴った。

 こんにちは。