ガイド・ドッグ-3

ハンカチを左肩に載せ、ヴァイオリンを頰で挟む。弓を張る。音叉をケースから取り出し、軽く叩く。A音が軽く鳴る。重音を鳴らして響きを聞く。スケールを鳴らして指の回り方を確かめる。
 と、玄関が開く音が聞こえた。とたとたと、廊下を走る音が聞こえてくる。
「おばあちゃん、バイオリン弾いてる! きらきら星弾いて!」
 きらきら星って気分じゃないんだがね、と思いつつ、頭の引き出しから、きらきら星変奏曲の楽譜を取り出す。ちょっと待って、という声がして、ランドセルを床に置く音、がさっと物を取り出す音がする。ややあって、いいよ、という声がした。ワン、ツー、スリー、フォー、と声に出して、ゆっくり目にドを鳴らす。少し遅れてリコーダーの音が付いてくる。ええと、小学生の楽譜ってどうだったかな、と思い出しながら弾く。振り落とさないように、ゆっくりと弾く。How wonder what you are!とフェルマータ。音がなくなり、どん、と足にしがみつかれた。
「こら、ヴァイオリンを持ってるときは、ドンはダメって言ってるでしょう?」
「だって、楽しかった!」
しょうがないねぇ、と言いながら、左手で頭を撫でる。子どもの髪の毛は、なんとさらさらとしていることなんだろうか。