ガイド・ドッグ-2

「そりゃ、めんどくさいですねぇ。あ、グラス拭きますね」
 それが仕事なんだとは知ってるが、イチイチそんなことしなくてもいいんだがなぁ、と思い、そしていつも通り、まぁいいや、ということにする。
「君、おかわりはいいの?」
「いいんですか? ありがとうございまーす! ドリンク! いただきましたー!」
 実際に呑んでいるかどうかは知らないが、まぁ、それは些細なことだ。ババアの愚痴を若い子が聞いてくれるってだけでありがたいって話だ。
「お客様、そろそろ…」
 知らない声がした、うん?と思って腕時計の蓋をあけて針をなぞる。たしかに時間だ、が、一杯あげたところだしな。
「じゃ、ハーフで。あと水割りと水を持ってきてもらえるかい?」
「ありがとうございます!」
 それから、いつも通り他愛のない話をして、また時計をなぞる。いい時間だし、いい酔い心地だ。 黒服さんが告げた金額を財布から渡し、ついでにタクシーを呼んでおくれ、と頼む。席を立つと、若い子が杖を渡してくれて、右手を取って自分の左肩に置いた。
「ここ、段になってるんで気を付けてくださいね」
「いつも来てるから知ってるよ」
 そういって笑う。若い子の肩の動きに合わせて段を降り、エレベーターに乗る。エレベーターを降りたら、ちょうどタクシーが来たようだ。
「楽しかったです。また、お待ちしてますね!」
「ババァだからねぇ、次はないかもしれないよ?」
「そんなお年じゃないですよ! なに言ってるんですか!」
 じゃあな、と手を振るとタクシーのドアが閉まった。


 毎度のことだが、遊んで帰るときのタクシーってのはあまり気分のいいもんじゃない。ババァがホストクラブかよ、というのの上に、「…にもかかわらず」ってのが運転から伝わってくる。こっちが酔ってないときの運転手さんは大概いい人だが、こういうときはロクに話もしようとしないのが大半だ。「可哀そうな人には親切にできる」「不愉快な客とは話もしたくない」 この二つは矛盾しない。