ガイド・ドッグ-1
「要らないわ。そんなの」
缶ビールを飲み干して、テーブルの上に置く。娘が缶を下げてくれて、娘婿がプルタブを引いた缶ビールを私の右手の手のひらにあててくれる。
「まぁ合わなければ、僕がもらいますよ。単純に技術的に面白いんです」
この娘婿は、悪い子ではない。悪い子じゃないが、自分がいいと思うことに関しては引き下がるということを知らない。その辺が邪魔をして、その頭の良さほどには出世ができていないんじゃないか、それが私の見立てだ。
「駐車場だっているし」
「家の向かいの駐車場、空きがでてましたよ」
外堀をちゃんと埋めてやがる。
「自動車なんて、乗れるわけないじゃない」
「そういう人向けに作ったんですよ」
夫が死んだ。もう十年になる。
私の手を引いてくれた犬、ベルナも死んだ。半年前のことだ。
「私はもう、外を出歩くつもりなんてないの」
「そんなこと言ってると、すぐ寝たきりになりますよ」
眉をひそめて舌を出した。娘がケラケラと笑った。知らないうちに結構呑んでいたらしい。