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そこからの記憶は、ちょっとあやふやだ。と、いうのも、準備されていた飲み物の中にはアルコール飲料が含まれていたからだ。なぜぶたれなかったんだろう、そんなことを考えながら、私は床にへたり込んだ。
次にある記憶は、柔らかいベッドだ。いい匂いがした。上半身を起こすと、あ、起きた、という声が聞こえた。声の方を見ると、綺麗なお姉さんが微笑んでいた。ごめんなさい、と声に出すと同時に、両手が顔を庇った。ぎゅっと目をつぶって痛みに備える。けれど、聞こえてきたのは朗らかな声だった。
「よし、客も来ないし、お風呂にしようか」
お姉さんは私の手を握った。

暗い廊下を歩く。お姉さんに手を引かれながら。白黒の服を着たお兄さんが手を振る。廊下に座っていた別のお姉さんが投げキッスをした。しばらく歩くとカウンターがあり、メガネをかけたおばさんが立っていた。
「お風呂の部屋、どこか空いてる?」
お姉さんが問うと、おばさんが
「325がちょうど清掃終わったところだ。着替えを届けておくよ」
と答えた。お姉さんはありがとう、と答えて、私の手を引いて階段を上がった。

お姉さんが開いた扉をくぐる。お風呂とソファとベッドのある部屋。私をソファに座らせ、お姉さんがブラシのビニールを取り、壁のスイッチを操作した。バスタブにお湯が注がれる。
「タバコは嫌い?」
「わからない」
「じゃあ吸うね」
お姉さんはそう言ってタバコに火をつけ、私の髪を梳き始めた。時々引っ掛かって痛みを感じたが、私は痛みに慣れていたのであまり気にならなかった。お姉さんのタバコが七割がた灰になったころ、お姉さんは髪を梳く手を止めた。