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おなかがすいていた。
さむかった。
ふらふらと部屋を出たら、知らない場所にいた。路地の向こうから、賑やかな声が聞こえてきた。そちらの方に歩いて行くと、一枚の扉が現れた。扉を少し開け、中を覗き込む。声はそのさらに向こうから聞こえてきているようだった。ふと、食べ物の匂いがした。部屋の中には誰もいない。気がつけば、わたしは部屋の中に入り、眼に映るものすべてを口に運んでいた。温かい食べ物。いい匂いのする飲み物。そのすべてを平らげた後で、カラになった食器が視界に入ってきた。ぶたれる。急に背筋が寒くなった。
「終わったかい」
ギョッとして振り返る。奥の扉が開け放たれており、ひとりのおばあさんを先頭に人垣ができていた。怖くて何も言えず、わたしは立ちすくんでいた。
「昼メシを楽しみに仕事してたら昼メシはなくなったときたよ。ないものはしょうがないから、適当に何か作っておくれ」
おばあさんはわたしの前を通り過ぎ、テーブルの奥の席にすわった。ひとりのコックさんが他の二人のコックさんに指示を出しながら、冷蔵庫の中身を確認しだした。
「菫子様! 冷蔵庫の中身は無事でしたよ!」
わたしを除いた全員が笑い声をあげた。